Kazuki OHTA – 道木研究室

Kazuki OHTA

名前:
太田 和希
学年/肩書:
卒業生
役職:
優しいチューター
グループ:
モータ
趣味:
サッカー,読書,ボードゲーム
一言:
研究一筋

研究テーマ / Research topic

誘導電動機磁束フィードバック型ベクトル制御の高性能化

なぜ今誘導電動機のベクトル制御について研究するのか?

誘導電動機のベクトル制御は1970年前後に発明され,1980年代になると本格的な実用期を迎えました.さらに,学術的な研究対象として1990年代後半まで盛んに研究されました.その後,学術的な研究対象は永久磁石や電磁鋼板の高性能化から永久磁石型の同期電動機等に移っていきました.

しかし,今なお誘導電動機は,安価,堅牢,高い保守性を有することから国内の出荷モータの割合は43%(図1)あり,産業界で広く用いられていることがわかります.

図1.三相誘導電動機の国内市場の現状 出典:経済産業省生産動態統計(2008年度)

 

さらに,誘導電動機の活躍の幅は広がってきており,電気自動車の主機モータとしてTesla,Audiが採用しています.

Fig.2 Tesla Model X 出典:テスラジャパンHP

Fig.3 Audi e-tron 出典:Audi HP

一般的に電気自動車のモータは永久磁石型の同期電動機が採用されています.希土類磁石を使うことで小型高出力のモータを作ることができ,広い運転範囲で高効率な運転ができるためです.

しかし,そんな永久磁石型の同期電動機は界磁に永久磁石を用いていることから,減磁を起こさないように電流や磁界,温度等を管理する必要があります.また,自動車や電車等の惰性運転時に永久磁石が回転することによって発生する電圧が損失を引き起こします.

一方で誘導電動機は永久磁石を構造上用いないので,上記のような心配はありません.さらに,モータの高速回転時にも両者には違いがあります.バッテリー電圧によって使用できる電圧には上限があるため,モータの高速回転時には電圧飽和が発生します.永久磁石型の同期電動機は永久磁石による界磁磁束を仮想的に減磁させるために電流を増やしますが,誘導電動機の場合,界磁磁束を作るための電流を減らすことでモータの高速回転時の制御を行います.

これらの理由から,特に高速運転が求められるような電気自動車の主機モータは誘導電動機が適していると考えています.

 

誘導電動機のインバータ非線形領域まで用いるモータ制御

インバータ非線形領域について

電気自動車はバッテリーから電気エネルギーを得ています.誘導電動機は交流モータのため,インバータによってバッテリーの直流電圧を交流電圧に変換し制御することができます.一般にインバータの線形領域(正弦波電圧)を利用しますが,その場合バッテリーの電圧を上限まで使い切れません.そこで,インバータの非線形領域まで用いることで最大27%の電圧利用率向上を図ることができます.(永久磁石同期電動機,インバータ非線形領域利用の詳細はYosuke NAKAYAMAのページ

誘導電動機の制御について広く研究されていた1990年代までに,インバータの非線形領域を活用した研究はありましたが,過渡的なトルク応答などの改善を目的としたものでなく,定常的に電圧を使い切るための制御でした.当時のプロセッサのレベルでは過渡的な応答まで管理できないという問題もありました.当時から20年以上たった今,プロセッサの性能は飛躍的に向上しました.さらに,永久磁石型の同期電動機で培われたインバータの非線形領域利用の研究内容を誘導電動機に転用できるのではないかと考えています.

誘導電動機で電圧利用率を改善することによるメリット

誘導電動機で電圧の上限を上げることのメリットは永久磁石型の同期電動機と比べて大きいと考えています.<!–

 

電気自動車用誘導電動機の制御の課題

電気自動車用の誘導電動機は汎用のものと比べて出力が何百倍にもなります.それだけでなく,電気自動車のようにモータの設置スペースが限られる用途においては高出力密度な誘導電動機が採用されます.そのため,小さい範囲に大きな電流を流し,多くの磁束を発生させるため制御に用いるパラメータである抵抗値やインダクタンスの値が大きく変動することが予想できます.

誘導電動機のベクトル制御は電流ベクトルを磁束成分(d軸)とそれに直交したトルク成分(q軸)に分解することで実現します.そのため界磁磁束の情報が制御に必要となりますが,磁束センサをモータに取り付け制御を行うことは現実的ではありません.そこで現代制御の知見を用いて誘導電動機のモデルから磁束オブザーバを構成し,推定した界磁磁束を制御に用いることが1990年代後半まで広く研究されていました.オブザーバの種類,ゲイン設計等に工夫を凝らした研究が提案されました.同時に適応同定によって得られたパラメータを用いることで磁束推定性能を向上させるような研究もなされています.

 

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まず一つ目は,永久磁石型の同期電動機と同様ですがモータの出力可能範囲を定常的に高速域まで上げることができます.電圧利用率を上げることで電圧飽和が生じる回転速度を引き上げることができます.

Fig.4 誘導電動機動作範囲イメージ

二つ目に,積極的に界磁を制御することによって高効率制御とトルクの応答を両立できると考えています.高効率制御を実現するためには動作点によって界磁磁束を変更する必要がありますが,界磁磁束の応答は電流応答に比べて遅いです.そのため,トルクの応答は界磁磁束の応答によって制限されてしまいます.そこで,デッドビート制御による界磁磁束の予測制御を導入し,磁束の応答を改善することができます.しかし,原理的に過渡時に大きな電流を流すため,過渡的な電圧飽和が発生しそれによっても電流応答,また磁束応答が制限されます.そのため,電圧飽和になってしまうような動作点では電圧利用率を改善することでトルク応答を改善できます.

Fig.5 デッドビート制御によるトルク応答改善

今後は,インバータ非線形領域を利用した誘導電動機の電流ベクトル制御のシミュレーション及び実機実験,また並行して電流ベクトル制御に用いる磁束オブザーバについての研究を行っていきます.