Keita Suzuki – 道木研究室

Keita Suzuki

名前:
鈴木 桂太
学年/肩書:
卒業生
役職:
受託研究員
グループ:
モータ
趣味:
バドミントンとお酒

研究テーマ / Research topic

過変調領域を含む拡張誘起電圧を用いた位置センサレス制御の電気自動車での性能評価

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研究背景と目的

 小形・高効率・高出力密度とった特徴から埋め込み型永久磁石同期モータ(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor:IPMSM)は様々な用途に広く用いられています。IPMSMの高効率・高応答制御を実現する為にはベクトル制御が用いられます。ベクトル制御を実現する為にはIPMSMの回転子位置の取得が必要であり位置センサが必要になります。位置センサは高価な精密機器であり、高コスト等の理由から位置センサの使用を望まないシステムが存在します。このような背景から位置センサレス制御の研究が盛んに進んでいます。図1、図2にセンサ付き、センサレス制御の制御構成とメリット・デメリットを示します。

 先行研究にて、従来のセンサレス制御のデメリットを解消した拡張誘起電圧を用いる位置センサレス手法が提案されています(1)(2)(3)(4)。提案された手法は従来法と異なり、各速度域での位置推定手法の切り替えを必要としません。これにより全速度域での位置推定の安定性が向上しました。既に先行研究で電気自動車実機での性能評価も行われており線形領域での制御有用性が報告されています。図3に従来法と新しく提案されたセンサレス制御法の位置推定手法の違いについて示します。

図3 従来法と提案されたセンサレス制御の位置推定手法

 本研究では、まだ上述のセンサレス制御で評価されていない過変調領域での制御性能の評価を行います。先行研究と同様のEVに対して過変調制御とセンサレス制御を実装し実際の走行試験から制御性能の評価を行います。本研究で使用するEVは図4に示すトヨタ車体製「COMS」を改造したものです。

図4 改造した電気自動車

過変調駆動とは

本研究では提案されたセンサレス制御の過変調領域での制御性能の評価を目的としています。この節では過変調駆動についての説明を行います。例えば電気自動車の様な移動体のシステムではできる限り広い運転速度領域が求められます。この運転速度領域はモータに印加される電圧が高いほど拡大します。モータに印加される電圧を高くするためには、バッテリセルを増設する方法が考えられますが、空間の制約があるような移動体には適した方法ではありません。そこで過変調駆動を用い、モータに印加する電圧波形を工夫することでハードウェアの構成を変更することなく、運速度領域を拡大できます。図5に過変調駆動での制御構成とメリット・デメリットを示します。

図5 過変調駆動

過変調駆動では、モータに印加する電圧を正弦波(線形領域)から矩形波(過変調領域)に近づけていきます。モータに印加する電圧を矩形波にすることでモータ駆動に関わる基本波の成分が線形領域と比べて最大127%となり、駆動範囲の拡大を実現できます。しかし、モータに印加する電圧に高調波を含む為、高調波電流が発生します。この高調波電流は制御系に様々な悪影響を与えることから高調波電流対策が必要になります。

本研究では、高調波電流対策に既に先行研究で提案されている方法を使用します。(5)

取り組み

電気自動車に過変調駆動と新しく提案された拡張誘起電圧を用いるセンサレス制御を実装し、過変調領域でのセンサレス制御性能を評価します。評価の方法は、駆動輪をジャッキアップした低負荷の状況と実際の走行試験から行います。具体的な評価のポイントは以下の通りです。

①センサレス制御が破綻しやすい急峻な電流・速度変化に対応できるか。

②高調波電流が発生する過変調領域においてセンサレス制御が継続できるか。

③過変調駆動において、EVの運転速度領域の拡大と加速応答性が向上しているか。

参考文献

  1. 近藤 翔太, 道木 慎二, 松本 純, 冨田 睦雄:「PMSM位置センサレス制御のための仮想誘起電圧表現に基づく制御用モデルに関する考察」, 電学論 D, Vol. 139, No. 1, pp.1-12 (2019)
  2. Saitoh, Y. Makaino, T. Ohnuma : “Adaptive Signal Injection Method Combined with EEMF-based Position Sensorless Control of IPMSM Drives”, IEEJ Journal of Industry Applications, Vol. 4, No. 4, pp. 454-459 (2015)
  3. 横山 智哉, 内田 洸介, 久保田 寿夫:「拡張誘起電圧と搬送波に同期した電圧重畳に基づくIPMSMの位置センサレス制御」, 電学論 D, Vol. 136, No. 3, pp. 212-221 (2016)
  4. 二村 拓未, 道木 慎二 : 「二種類のEEMFモデルを併用したPMSMの全速度域位置センサレス制御の一構成」, 電学研資,SPC, 5-107 (2019)
  5. 近藤 孔亮,道木 慎二,:「永久磁石同期モータの位置センサレス制御のためのインバータ過変調領域まで駆動可能な位置推定系の検討」, 平成28年電気学会全国大会, 1, 2016.